
はじめに
当ウェブサイトにて、アドバイザーとしていろいろなルーマニア情報を教えてくれるエミリアによるルーマニアにまつわる連載コラムです。第4回は、ルーマニアの民族舞踊の中でも特に特徴のあるダンスについてお届けします。
カルーシュー 世界遺産のダンス
毎年9月になると、「ルーマニアの日」というイベントがブタペスト市内のいくつかの場所で開催されます。そのひとつとして、以前、ルーマニア南部のスルビーマグラ村からカールシャーリー(Calusari)という民族舞踊団がスペシャルゲストとして招かれました。11区にあるフォノー・ブダイ音楽堂で公演が行われましたが、ハンガリー・ダンスアート大学で民族舞踊を学ぶハンガリーの学生たちも大勢参加して大盛況となりました。
このイベントでは、世界中でもっともステップが早いダンスといわれるカルーシというダンスがひときわ注目を集めました。カルーシはルーマニア民族舞踊のなかでももっとも古いタイプのダンスで、南部の伝統的な家系で継承されています。カールシャーリー民族舞踊団は、ブラショフにあるジューニというグループと同様に元来は村の若者を成人にするための儀式を執り行うグループで、加入時には宣誓と儀式が課されます。ダンス自体にも、たとえば「生命の創造」といった深い意味が含まれています。ただし一般的なルーマニア人は、ダンスのパワーとエネルギーに感動するだけで古い伝統的な意味合いを忘れかけています。
カルーシュは男性のダンスです。男らしい雰囲気に特徴があり、時には戦争を想起させる動きもあります。ダンスのなかでは踊り手同士の対話が構成されていて、時間が経つにつれてテンションが高まっていきます。フィナーレが迫ると、人間が踊っているのではなく、まるで別世界の生き物がうごめいているようにも見えてきます。激しいリズムは衣装からも醸し出されています。色彩豊かなリボン、鈴が付いた帽子、腰巻の鈴、そしてポイントとなっているのは足首に巻いた鉄の拍車のぶつかり合う音です。長棒を手にして踊ることもあります。元々はサーベルを使用していて、人間に憑いた邪悪な心を取り去るという意味を持っていました。
最近このカルーシというダンスの知名度が世界的に高まっていますが、それはスルビーマグラ村が有名になったためです。彼らはヨーロッパやアジア、南米、北米と世界各地でパフォーマンスを披露してきました。アメリカではホワイトハウスで公演を行いましたが、「あまりの盛上がりに、アラームシステムが故障してしまいそうになった」と振付師のフローリカ・トゥルヤヌ氏が語っています。氏によると、カシールの存在価値は伝統を保持することにあるそうで、彼らが継承するダンスは数百年前とスタイルがほとんど変わっていません。そのためカシールは、ユネスコ世界遺産に指定されています。
フローリカ氏の本業は小学校教諭です。しかし普通のクラスでだけではなく、ルーマニア伝統文化と民族舞踊という特殊クラスも担当しています。こうしたクラスを指導しているのは、この地方では彼だけです。彼はこれまでに300人以上の子供たちにダンスを指導してきました。2002年には、ブタペストとの文化交流イベントでハンガリー人にこのダンスを指導しました。その翌年には、彼の村にルーマニア民族舞踊学習のためにブタペストからハンガリーが大勢訪れています。
現在、ブタペストにはルーマニア民族舞踊を教わることができるグループがふたつあります。ひとつがダンスアート大学、彼らはプロとしてカルーシだけを踊っています。もうひとつは、チェルブル・デ・アウル(金の牡鹿)というグループです。彼らはアマチュアですが、ルーマニア各地方に伝わるダンスを選んで踊っています。なかでも南ルーマニアのダンスが多く、ラカトシュ・アンドラーシュというリーダーがルーマニアの小さい村まで足を運んで勉強しています。もちろん、フローリカ氏の家にも二度、訪れたことがあります。

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