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All About Romania

連載コラム

はじめに

当ウェブサイトにて、アドバイザーとしていろいろなルーマニア情報を教えてくれるエミリアによるルーマニアにまつわる連載コラムです。第一回は、春のルーマニアについてお届けします。

春のルーマニア・ブラショフのジューニ

カルパチア山脈に囲まれたブラショフ、この街の一角にザクセン人によって作られた城壁で囲まれた旧市街があります。そこから山の裾野に向かうと、スケイという小さな部落が現れます。ここはザクセン人の入居前からあるルーマニア人の旧市街、つまりブラショフの原型です。大雪の厳冬が終わり、春の優しい日差しが木々を照らし始めると、このスケイはお祭りの時期を迎えます。

スケイでは、イースター後最初の日曜日がお祭りと決まっていて、これは俗にジューニと呼ばれています。ジューニとはジュニア、そう若者を意味します。お祭りの日になると、ジューニと呼ばれる若者たちはファンファーレを鳴らし、馬に乗って旧市街をパレードします。神が世界を創造した7日間に、ちなみジューニも7つのグループに別れ、それぞれが異なる伝統的な衣装で着飾ります。帽子、旗、ポール、衣装の飾りなどの色がグループによって違うためカラフルでユニークです。なかには1730年代から引き継がれた年代物の衣装を見かけることもできます。もちろん馬にも派手な装飾を施しますが、ジューニのリーダーが4万個ものビーズが付いた重さ10キロものシャツを羽織るのは見ものです。

ジューニはパレードの途中に民族舞踊と歌を披露し、それが終わると代表者が1人ずつメンバーの真ん中に躍り出し、グループのシンボルであるポールを空に向かって高く投げ上げます。これはチャレンジ精神を表現する競争で、一番高く投げ上げた人が勝者となります。そう、これは少年たちが大人として認めてもらうためのイニシエーション、通過儀式でもあるのです。

パレードが終わるとジューニたちは家族と一緒に山裾にある村はずれに集まり、伝統的な音楽を奏でながらパーティーを催します。そこではミチと呼ばれるルーマニアンソーセージを焼くのが慣わしです。

スケイの春祭りは文献的では1728年が初見ですが、それ以前より、もしかしたら紀元前から続いているのかもしれません。というのも、そもそもイースター後の日曜日が現ルーマニアの先祖であるダキア人にとってのお正月であったからです。またスケイでは、太陽信仰と関係のある慣習がつい最近まで続いていました。儀式の日、夕刻になると村の男女は大掛かりな荷物を持って山へと出発します。その際、リーダーは村の家々の戸を叩いて廻ります。昔からこの地方の家の戸には蛇を形取ったノックが付いていました。これは、古代ダキア人が戦争の旗印として蛇のモチーフを用いたことに由来しています。つまり、古代ダキア人にとっての蛇は勇気を奮い立たせる象徴で、蛇の口から兵士の体内にも自然のエネルギーが入ると人々は考えられていたのです。スケイの村人たちは夜中に山を登ると、どんなに寒くても翌朝を頂上で迎えます。そして日の出になると、みなで太陽に向かって物を投げます。古代人はこうすることで悪魔が太陽を盗むことができなくなると考えていたからです。こうした迷信や習慣は古代ダキアから引きついた太陽信仰の一部で、現在はほとんどみられなくなりましたが、ジューニの祭りではそうした伝統の名残を見ることができるのです。

ジューニにもうひとつの大切なこと、それは少年から大人になるためのイニシエーションとしての意義です。古代人には、それがギリシャであれローマであれゲルマンであっても、都市在住の男児を家族から引き離して育てる習慣がありました。子供たちには、少年つまりジューニに相当する年齢になると様々な試練が課せられました。村から隔離されるサバイバルテスト、絶食、絶眠、男児としてどれだけ生理現象を制御できるかを試すためです。危険な岩山登り、長距離走などその種類は数え切れません。スケイにあるソロモン岩と呼ばれる洞窟がジューニの人里離れた本拠地になっていますが、そこでも古代人同様のイニシエーションが行われていたのです。

ブラショフの春祭りはキリスト教が生まれる以前の異教時代の名残で、元来は冬に競り勝った太陽とそのエネルギーに感謝するお祭りです。派手なパフォーマンスも興味深いものかもしれませんが、神話・儀式・セレモニーといった神秘性をもつ3要素を強調するおとによって、実は春・イースター・英雄という人々の生活を支える普遍的なシンボルを統合しているのです。