
はじめに
ルーマニアの民族舞踊・フォークロアダンスは、ルーマニアを語る上で欠かせない、活気に満ちた文化活動です。これらの伝統舞踊は、ルーマニアの歴史、社会習慣、そして文化を形成してきた多様な影響を反映しています。ここでは、ルーマニアのフォークロア・ダンスについてご紹介します。
ルーマニア・フォークロアダンスの種類
ルーマニアのフォークロアダンスには様々な種類がありますが、特筆すべきは老若男女問わず誰しも参加し、気軽に楽しめること。音楽に合わせて体を動かすことは、単なるスポーツとしてだけではなく、その場にいる人々と心を通わせる手段でもあります。
音楽は通常、バイオリン、アコーディオン、フルート、コブザ、チンバロムなどの楽器で演奏される生演奏のフォークロアミュージックとともに踊られます。知らない曲でも、歌詞がわからなくても、心が躍るようなメロディとリズムが魅力です。
地域によって異なりますが、一般的には精巧な刺繍が施されたブラウスやシャツ、カラフルなスカートやズボン、装飾的なヘッドピースなどを纏って踊ります。もちろん、通常のイベントであれば普段着で躍る場面もたくさんあります。
ホラ(Hora )
最も有名なルーマニア舞踊の1つであるホラは、参加者が手をつなぎ、円を作って、リズミカルに動くグループダンスです。結婚式やお祭りなどのイベントではもちろん、家族や友人で集まってお酒を飲めば、どこからともなく音楽に合わせて踊り出すのがルーマニア人!団結力と共同体の象徴とも言えるダンスです。
地域によって独自のステップやリズムがありますが、基本的には簡単なステップで、初めての方でもきっと参加できると思います。
シャルバ(Sârba)
複雑なフットワークと素早い動きを伴う、活発でテンポの速いダンスです。サークル、ライン、カップルと様々なフォーメーションがあり、手や腕を絡ませあって踊ります。通常、8分の6拍子、2分の4拍子、4分の4拍子で熱狂的な踊りを促し、社交行事やお祝いの席で非常に人気です。歴史的にはルーマニアだけでなく、モルドヴァ共和国やセルビア、ウクライナ、ハンガリー、ポーランドの高地民(ゴラル)などにも似たような踊りがあり、スラブ系にルーツがあると言われています。
ブラウル(Brâul)
ブラウルは通常、ラインまたはサークルで踊られ、ダンサーはベルトまたはサッシュでお互いをつかみながら躍る、ベルト・ダンスです。ジャンプやキックを取り入れて、ダイナミックでエネルギッシュな動きが特徴。特にオルテニア、バナト、ムンテニア地方で盛んで、”Brâul “は、ルーマニア語で “ベルト “を意味しており、踊り手が互いのベルトやたすきを握り合う様を表しています。この結びつきは、コミュニティ内の団結と強さを象徴していると言えます。
ブラウルのテンポは、地域のスタイルや場面によって、緩やかなものから速いものまでさまざまです。リズムはしばしば複雑で、踊りのダイナミックさを増すペースの変化があります。
ブラウルはお祝いの踊りであり、結婚式やお祭り、その他の重要な社交の場でよく踊られます。人々をひとつにまとめ、喜びや共同体のアイデンティティを表現する手段ともなるのです。
チウレアンドラ(Ciuleandra)
正確な起源は不明ですが、ルーマニアのムンテニア地方が発祥の地とされているダンスです。ホラやシャルバは様々な曲がありますが、このダンスに限っては、曲名がそのままダンス名になっており、この曲自体がルーマニア人にとって馴染みのある曲でスポーツの応援などで替え歌になることも。ダンスの特徴としては、ゆっくりとしたリズムでスタートし、徐々にテンポが速くなる曲に合わせて円や列になって動き、敏捷性と強調性を披露します。
また、チウレアンドラはルーマニアの文学や映画にも登場しており、特にリヴィウ・レブレアヌの小説 “Ciuleandra “が有名で、後に映画化もされました。この作品によって、ルーマニアの文化におけるチウレアンドラの地位は確固たるものとなったと言われています。
フェシオレアスカ(Fecioreasca)
力強さや敏捷性、協調性を重視した男性用のダンスです。一般的にアクロバティックな要素を含み、ソロまたはグループで踊ります。ルーマニアの農村、特にトランシルヴァニアとマラムレシュ地方の伝統に深く根ざしており、ルーマニアの民俗文化の中で最も伝統的で尊重されている踊りのひとつです。Fecioreascaとは、ルーマニア語で「若者」を意味する言葉(fecior)に由来しており、この踊りが伝統的に若い男性によって踊られていたことを示しています。通過儀礼や、若さの活力と技巧の披露と関連付けられることが多く、音楽も躍動的でエネルギッシュでダンスの活発な動きに合うようにデザインされています。
フェスティバルやダンススクール、コミュニティプログラムなど、さまざまな文化的イニシアティブがフェチオレアスカの保存に取り組んでおり、この踊りが生きた伝統として、新しい世代のダンサーたちに受け継がれています。
地域のバリエーション
様々なジャンルをご紹介しましたが、ルーマニアのフォークロアダンスは、各地域によっても様々な特徴があります。ここでは地域による違いをご紹介します。
モルダヴィア(Moldavia): デ・ア・ルングル(De-a lungul)のようなテンポが速く、複雑なステップを組み合わせた踊りと、活発なパフォーマンスで知られます。
トランシルヴァニア(Transylvania): 儀式的な踊りが特徴で、複雑なパターンやフォーメーションを伴うことが多いと言われています。
マラムレシュ(Maramureș): 素朴で力強いスタイルが特徴で、伝統的な木製の楽器を伴うことが多々あります。
オルテニア(Oltenia)とムンテニア(Muntenia): ホラ(Hora)やシャルバ(Sârba)のような優雅で流れるような踊りがあり、リズムと一体感に重点を置いています。
まとめ
ルーマニアのフォークロアダンスは、ルーマニアの文化的アイデンティティを示す重要な一面であり、老若男女問わず楽しめる健康的な活動です。儀式やお祝い、そしてお祭りと行事の面ではもちろん、普段の生活の中にダンスが息づいているのです。
また、多くの地域で、ルーマニアフォークロアダンスのプロ公演を鑑賞することができます。特に、「Junii Sibiului」(ジュニイシビウルイ)は、豊かな文化遺産で知られるシビウ(Sibiu)で、1944年に創設されたルーマニアで最も古く、最も権威のある民族舞踊団のひとつです。ブカレストの国立劇場やルーマニア・アテネウムなどの一流劇場をはじめ、ルーマニア全土のプロの舞台で定期的に公演を行っているので機会があればぜひ公演を観に行ってみてはいかがでしょうか?
