
世界のオートクチュールブランドが、ルーマニアの伝統衣装にインスパイアーされたデザインを取り入れたコレクションを発表するなど、世界中からも熱い注目を集めるルーマニアの伝統衣装。白をベースにしながら、カラフルな刺繍やデコレーションでルーマニアの人々をさらに美しく彩る伝統衣装を徹底解剖します。
ルーマニアの伝統衣装の基本

ルーマニアの民族衣装は、ルーマニアの文化を語る上で欠かせない存在です。男性、女性ともに白を基調としたセットアップで、男性は長めのシャツの上から太めのベルトを締め、ボトムはパンツやレギンス、地域、または季節によってベストやジャケット、ブーツを身に付けます。女性は、シャツにラップスカートやエプロンを重ね、細いベルトを巻き、柄の入ったスカーフや飾りのついたヘッドバンドなどを身に付けます。アイテムや装飾品は地域によって異なるため、ルーマニア人であれば、刺繍や色使い、コーディネートを見るだけで、どの地域の民族衣装であるかもおおよそ予測できるほど、馴染みのあるものなのです。
ルーマニアの伝統的なブラウス「ie(イエ)」
ルーマニアの民族衣装の象徴とも言えるアイテムが、女性が纏うブラウス「ie」(イエ)もしくは「ia(イア)」です。通常、複雑な模様やモチーフを示す精巧な手刺繍が特徴で、その美しさは息を呑むほど。刺繍の柄は、自然や信仰、また民間伝承に関する象徴的な意味が込められていることが多いと言われています。刺繍の色は、地域によって異なるものの、ブラウスの素材は、白いリネンかコットンが主流で、袖とネックラインに施されたカラフルな模様を引き立たせています。ブラウス以外にもラップスカートやエプロン、ベスト、ヘッドスカーフなどがあり、いずれも伝統的な刺繍が施されています。

このブラウス「ie」を祝う国際デーも6月24日に設定されています。これは、オンラインコミュニティーの呼びかけから10年ほど前に誕生し、ルーマニア国内外に関わらず様々なイベントが行われるようになりました。地域別に見る伝統衣装についてご紹介していきます。
地域ごとに見るルーマニアの伝統衣装の違い
小さな集落でも独自の伝統を引き継いでいたり、その柄やアイテムの違いはかなりの数に亘るため、視覚的にわかりやすく、日本人の私たちでもその違いを見て感じることができるエリアについて言及しています。
Bucovina(ブコヴィナ)
ルーマニア北西部、ルーマニアの中でも伝統的な暮らしを大切にすることで観光地としても人気のブコヴィナの民族衣装を見てみましょう。女性は刺繍入りのブラウス、ベスト、プリーツスカート、ヘッドスカーフを身に着け、男性は白いシャツ、ベスト、ズボンを着用し、刺繍入りのベルトを纏います。雪深いエリアでもあることから、男女ともに冬場は毛皮で縁取られた厚手のベスト、またはジャケットを着用。様々なアイテムを重ねて身につけることで美しさと共に実用的な面も強調していると言えるでしょう。
Moldova(モルドヴァ)
ルーマニア北東部、モルドヴァ地方の民族衣装を見てみましょう。女性は、長方形のエプロン(カトリンタ)を裾に刺繍が施されたプリーツスカートに巻きつけ、細い紐で結びます。頭には、主に赤や黒をベースに特定の刺繍が施されたスカーフが定番。男性のブラウスは、膝程度まである長めでゆったりとしたもので、袖や胸、裾に刺繍が施された物がほとんどです。織物の腰ベルト(バルネ)をポイントに巻きます。ブラウスの素材は亜麻、麻、綿、または手紡ぎの細い毛糸が主流で、タイトなズボンを着用。牛革のブーツとアストラカン帽は、背を高くスリムに見せる効果もあるそうです。寒い時期には、男女ともに黒をベースにした革のベストと毛糸の編み紐をあしらったウールのコートを身に纏います。
Translylvania(トランシルヴァニア)
ルーマニア北部のトランシルヴァニア地方は、その伝統の奥深さ、多様性から観光地としても人気のエリアです。トランシルヴァニアは、小さな地域ごとにも裁断や装飾、色彩、デザインなど多くの点で特色があります。女性は花柄の刺繍が入ったブラウスにロングスカート、黒または赤と黒の組み合わせの長方形のエプロンを前後で結び、ベストやコート、ヘッドドレスを着用。男性の服装は白いシャツ、ベスト、ズボンが定番で、色や刺繍にバリエーションがあります。男女ともに足元はブーツや革靴が用いられています。
トランシルヴァニアの中でも、Bistrița-Năsăud(ビストリツァ・ナサウド)地域の伝統的な衣装では、孔雀の羽をあしらった帽子が特に有名です。黒のフェルト帽に、色鮮やかなビーズ、そして孔雀の羽があしらわれています。この帽子の製造は非常に手間がかかり、職人は1つの帽子に500枚もの孔雀の羽を使うこともあると言われています。
Maramureș(マラムレシュ)
トランシルヴァニア地方北部、ウクライナとの国境沿いに広がるマラムレシュの民族衣装です。女性は大ぶりのフリルが施された白いブラウス、または繊細な刺繍が施されたブラウスに、大きなプリーツスカート、赤と黒のエプロンを装着し、ヘッドスカーフを着用します。男性はワイドパンツに白いシャツ、太めのベルトに場合によってベストを加えます。特に男性が被る小さな麦藁帽子がポイントで、この帽子はお土産にも人気です。
Banat(バナト)
ルーマニアの南西部に位置するバナト地方の伝統衣装は「port popular din Banat」と呼ばれるほど、鮮やかな色彩と複雑な刺繍、独特のデザインが特徴です。セルビアと国境を接していることもあり古くから他民族エリアとして成長してきた地域でもあります。女性は袖とネックラインに豪華な花や幾何学模様が刺繍された白いブラウスに、大胆な色使いが目をひく、刺繍入りのスカートにスカートと対照的な色使い、刺繍が施されたエプロンを装着、ヘッドスカーフを巻きます。そして、金属製のアクセサリーをたくさん身につけることもこのエリアの特徴と言えるでしょう。男性は、一般的には白で、袖と襟に複雑な刺繍が施されたシャツに、カラフルな糸や金属の糸で刺繍が施されたベスト、ウールなどの厚手の生地で作られ、刺繍で飾られたストレートパンツを合わせます。男女ともに、金属製のベルトを締め、足元は革靴かブーツが伝統的な着こなしです。
Oltenia(オルテニア)
ルーマニア南西部に位置するオルテニアの伝統衣装を見てみましょう。女性用のブラウスは、他地域と同様に白をベースに、袖や襟、前身頃に精巧な刺繍が施されています。ボトムスは、スカートの上にエプロンを着用。エプロンにも色とりどりの刺繍が施されることが多く、スタイルや柄は様々です。刺繍が施されたヘッドスカーフやベルトも装着しますが、具体的なパターンや色、デザインは、オルテニア内の地域によっても異なります。男性は刺繍入りのシャツに、ウールなど厚手の生地で作られたベストを着用。パンツはストレートなデザインで、縞模様などの装飾が入ることもあります。男女ともに、伝統的な革製のサンダル、もしくはブーツを履きます。
まとめ
以上がルーマニアの民族衣装の中でも特に特徴があるエリアになります。ルーマニアに行けば、伝統衣装を纏った人を街中で見かけることもあるでしょうし、旅行者向けのステージではフルコスチュームを身につけた人々の渾身のパフォーマンスを楽しむこともできます。また、お祭りや儀式に遭遇すれば、さらにカラフルで個性的な衣装を纏った人々を目にすることでしょう。
ieの購入を希望する方は、観光地の露天でも売られていますし、空港でも購入の機会があります。お土産向けのものであれば、2000円程度で購入が可能です。ただし、本格的なものになれば現在も手刺繍により製造が行われていますので、日本の着物と同様に金額は高額になります。現地で手刺繍の作品を希望する場合は、3万円〜10万円くらいの予算は確保したほうが無難です。また、最近では古い衣装もヴィンテージ品としてコレクター人気も高く、古いieをクリーニングし、販売する専門店などもあるので、好きな雰囲気の一着を見つけてみてくださいね。
最後に、Instagramで人気のルーマニアの伝統衣装、文化を紹介するページを載せておきますので、ルーマニアの衣装が好きな方はぜひフォローしてみましょう!このページで紹介しきれなかったディテール美を堪能することができますよ。
